病理検査室で火災、復旧まで1年超 静岡県立総合病院「事例知って」 静岡県立総合病院(静岡市、718床)の病理検査室で2022年9月24日午後3時ごろ、火災が発生した。土曜日でスタッフはおらず人的被害は免れたが、火元の染色室から延焼し、1年以上にわたって病理検査室は使えなくなった。当時技師長だった平松直樹氏(静岡県立病院機構本部医療技術指導監)、部門長の坂根潤一氏がこのほど本紙の取材に応じ、当時の状況やその後の防火対策などについて語った。坂根氏は「当院の事例を知ってもらい、日頃からの対策を考えてほしい」と呼びかけている。火元となった染色室(提供写真) 「呆然とした」。火災発生の一報を平松氏から受け、自宅から最初に駆け付けた坂根氏は、2階の窓から吹き出す炎を見たときの心情をそう話す。建物の端から何番目の窓かを数え、「間違いなく病理検査室だと」。検査室には自動包埋装置で処置中だった何十人分もの患者検体がある。「組織検体が焼失したら診断ができなくなる」。病理技師としてまず考えたのは検体を一刻も早く安全な場所に移すこと。鎮火後、消防士と一緒に室内に入り、全ての検体を安全な場所に移した。 火災が起きたのは3連休の真ん中の9月24日午後。県内では、台風15号による大雨で山崩れが発生し、送電鉄塔2基が倒壊。静岡市を中心に13時間の停電に見舞われた。火災は、その停電が復旧した20分後に起きた。火元は染色室。原因は不明だが、一般的に用いられる装置から出火したとみられている。スタッフルームなど病理エリア4室が焼け、火災のすすで大半の装置が使えなくなった。階下の中央滅菌材料室は消火時の放水で水浸しになった。 火災は細胞診鏡検室にも及んだ(提供写真) 病理検査室の復旧の実務は坂根氏を中心に行った。大手検査センターの全面的な協力を得て、2日後から外注検査を開始した。また、同じ棟の5階の試料保管室を標本作製室にし、地下1階の解剖室で固定や切り出しをするなど、検査機能を分散させ、仮設の病理検査室を設けた。火災から9日後には術中迅速診断や切り出し業務を再開した。 平松氏は、検査機能の復旧について「病理検査機能を維持するためどうすべきか、理事長ら病院上層部と一緒に考えた」とし、病院トップ主導で迅速に整備できたと振り返る。いざというときには日頃の関係性が問われる。上層部との良好な関係が幸いした。 仮設室の検査は、病理検査室の復旧工事が完了した2023年11月まで1年1カ月続いた。●「一度は机上訓練を」 長時間停電から復旧したときに起きた火災を経験し坂根氏は、機器の接続先の確認や復電時の立ち会い・見回りが必要だと指摘している。復電のときには急激な電流が流れることがあり、重要な機器や装置は、停電時に非常用自家発電に切り替わる非常電源回路に接続する、UPS(無停電電源装置)は非常電源回路に接続する―ことの確認が欠かせない。病院は2023年6月に「振り返り報告会」を開き、UPSの取り扱い講習会も開催した。病理検査室は2024年1月、ISO 15189を取得し、停電時や震災時の対応、避難経路などを危機管理手順書に定めた。 検査室にはアルコールやキシレンなど多くの化学物質があり、再採取できない患者検体も少なくない。「明日、もし火事が起きたときに検体をどうするのか、どこに外注先があるのかなど、一度は想定しておくことが重要」。坂根氏はISOの取得にかかわらず、部門責任者が少なくとも机上の訓練をしておくべきだと訴えている。
静岡県立総合病院(静岡市、718床)の病理検査室で2022年9月24日午後3時ごろ、火災が発生した。土曜日でスタッフはおらず人的被害は免れたが、火元の染色室から延焼し、1年以上にわたって病理検査室は使えなくなった。当時技師長だった平松直樹氏(静岡県立病院機構本部医療技術指導監)、部門長の坂根潤一氏がこのほど本紙の取材に応じ、当時の状況やその後の防火対策などについて語った。坂根氏は「当院の事例を知ってもらい、日頃からの対策を考えてほしい」と呼びかけている。火元となった染色室(提供写真) 「呆然とした」。火災発生の一報を平松氏から受け、自宅から最初に駆け付けた坂根氏は、2階の窓から吹き出す炎を見たときの心情をそう話す。建物の端から何番目の窓かを数え、「間違いなく病理検査室だと」。検査室には自動包埋装置で処置中だった何十人分もの患者検体がある。「組織検体が焼失したら診断ができなくなる」。病理技師としてまず考えたのは検体を一刻も早く安全な場所に移すこと。鎮火後、消防士と一緒に室内に入り、全ての検体を安全な場所に移した。 火災が起きたのは3連休の真ん中の9月24日午後。県内では、台風15号による大雨で山崩れが発生し、送電鉄塔2基が倒壊。静岡市を中心に13時間の停電に見舞われた。火災は、その停電が復旧した20分後に起きた。火元は染色室。原因は不明だが、一般的に用いられる装置から出火したとみられている。スタッフルームなど病理エリア4室が焼け、火災のすすで大半の装置が使えなくなった。階下の中央滅菌材料室は消火時の放水で水浸しになった。 火災は細胞診鏡検室にも及んだ(提供写真) 病理検査室の復旧の実務は坂根氏を中心に行った。大手検査センターの全面的な協力を得て、2日後から外注検査を開始した。また、同じ棟の5階の試料保管室を標本作製室にし、地下1階の解剖室で固定や切り出しをするなど、検査機能を分散させ、仮設の病理検査室を設けた。火災から9日後には術中迅速診断や切り出し業務を再開した。 平松氏は、検査機能の復旧について「病理検査機能を維持するためどうすべきか、理事長ら病院上層部と一緒に考えた」とし、病院トップ主導で迅速に整備できたと振り返る。いざというときには日頃の関係性が問われる。上層部との良好な関係が幸いした。 仮設室の検査は、病理検査室の復旧工事が完了した2023年11月まで1年1カ月続いた。●「一度は机上訓練を」 長時間停電から復旧したときに起きた火災を経験し坂根氏は、機器の接続先の確認や復電時の立ち会い・見回りが必要だと指摘している。復電のときには急激な電流が流れることがあり、重要な機器や装置は、停電時に非常用自家発電に切り替わる非常電源回路に接続する、UPS(無停電電源装置)は非常電源回路に接続する―ことの確認が欠かせない。病院は2023年6月に「振り返り報告会」を開き、UPSの取り扱い講習会も開催した。病理検査室は2024年1月、ISO 15189を取得し、停電時や震災時の対応、避難経路などを危機管理手順書に定めた。 検査室にはアルコールやキシレンなど多くの化学物質があり、再採取できない患者検体も少なくない。「明日、もし火事が起きたときに検体をどうするのか、どこに外注先があるのかなど、一度は想定しておくことが重要」。坂根氏はISOの取得にかかわらず、部門責任者が少なくとも机上の訓練をしておくべきだと訴えている。