〈レポート〉外来採血を継続改善、患者満足度の向上へ 姫路赤十字病院 姫路赤十字病院(兵庫県姫路市、560床)の検査技術部が、外来採血に対する患者満足度を高めるための取り組みを続けている。2016年以降、最大1時間あった待ち時間の短縮へ多職種チームで改革を続け、採血の難易度と採血スキルとのマッチング方法、患者の導線などに工夫を凝らす。一連の取り組みは、患者満足度と職員満足度の向上につながり、現場からの積極的な改善提案が上がる好循環が生まれている。 姫路赤十字病院 病院は110年の歴史を持ち、高度急性期・急性期病院として人口約83万人の医療圏で中核の役割を担う。特色の一つががん診療。地域がん診療連携拠点病院の指定を受け、地域で最多の症例実績を持つ。外来採血でも化学療法患者が多い特徴がある。 外来採血を担当する採血係は、永谷達也係長、臨床検査技師3人(臨時職員)、看護師4人の計8人で、常時6人が日々の採血に当たる。採血台は7台あり、必要時には同じ検体検査第二課である輸血・血液検査係が応援に入る。また、一般の受け付けより30分早い朝8時からの早出当番を検査技術部全体で対応している。採血室◆廊下にあふれる状況を解消 採血室前の廊下にあふれる患者をなくす―。外来採血の改革は2016年、予算をあまりかけない、いわば「手づくり」の取り組みから始まった。 「ずっと以前から病院全体として取り組まないといけない課題だった」。古川惠子技師長はそう回顧する。採血台4台、中待合はなく、受け付けは全て有人カウンターでの対面。外来患者数の増加に伴い、受け付けから採血までの平均待ち時間は40〜50分へと延長し、混雑する朝は1時間を超える。患者は廊下にあふれ、座る場所もない。採血の順番がきたときには患者はすでにイライラしていて非協力的。失敗をしないようにと採血担当者は過度に緊張する。TQM改善活動の一環で多職種チームを組織し、そんな悪循環を解消するための試みを始めた。採血順が分かる番号札 まず取り組んだのは「採血順番の見える化」。バーコードの付いた短冊状の番号札を受付時に渡し、カウンターのディスプレーに現在の採血番号を表示する。簡単な仕組みだが、自分の順番までどのくらい待ち人数がいるかだけは分かるようになった。また、患者情報の共有も始めた。「難しい人リスト」のノートを作り、採血部位のほかに、「右手前腕温めて」など採血時に気付いたことをコメントとして残した。 しかしそれだけでは、廊下に患者があふれる状態は解消できない。最大待ち時間は60分から46分へと短縮したが、「イライラを抑える、採血の成功率を上げるのが精いっぱい」(古川氏)。新設した中待合室 その後、5年越しの要望が認められ、病院の外来再編の動きに合わせて、40人が座れる中待合の設置が決定した。それを機に、採血業務支援システムの導入へと踏み出す。業務支援システムや自動受付機2台などの導入が決まり、多職種で外来運用ワーキングを設け、スムーズな患者動線を検討。2022年から運用を始めた。◆難易度とスキルをマッチング 新システムでは、患者の採血難易度と採血スキルをいずれも5段階でランク分けし、両者のランクが合うようにマッチングする。導入した業務支援システムの機能だが、約6万5000件の穿刺情報を基にシミュレーションを重ね、オリジナルのランク分けを決めた。 具体的には、血管状態が良好で穿刺部位が正中を「簡単」のランクに設定。穿刺部位が左右手背などでも血管状態が良好であれば「普通」とし、血管状態が硬い等で穿刺部位が手首だと「超困難」、血管状態が深い等で穿刺部位が左右足背等だと「困難」にすると決めた(下図)。 一方、「簡単」の採血ができるスキルを5段階の下から2番目の「2」に設定。「普通」をスキル3、「困難」はスキル4、「超困難」をスキル5とし、それぞれのスキルをクリアしたスタッフが担当する。スキル1は練習中で患者から採血しない。 ポイントは、「簡単」の割合にある。1割いる初採血を除いた患者の半分程度になるよう「簡単」を定義付けした。古川氏は、患者から不満が出やすい採血順の変更を避けるためだと狙いを説明する。「採血スキルを持つスタッフであれば誰でも採血できる患者が半数いる。『簡単』しか取れない『2』のスタッフのときでも順番を変えずに済む」。 患者の情報は、業務支援システムを通じて共有する。採血時に、穿刺部位や穿刺回数、使用針のゲージ、失敗理由などのほか、「しっかり止血」「採血本数を言わない」「聴覚障害」などのコメントを残し、次の採血者に引き継ぐ。 このほか、受付時の流れをスムーズにするため、オーダリングシステム上のコメントの有無で患者を振り分けるルールも取り入れた。外来化学療法の患者の優先番号付番や何らかの事前確認が必要なときなどは医師や医療秘書がコメントを入れ、コメントがある患者は有人の受付へ、コメントがなければ自動受付機へと誘導する。受付時の混雑を避けるためだという。◆「こころの待ち時間」を短縮 この取り組みにより採血待ち時間は現在、最大27分、平均11分に短縮した。古川氏は、「混雑時でも待ち時間が30分を切れたのは成果」と話す。 ユニークなのは、ここからさらに待ち時間の短縮を追い求めるのではなく、「こころの待ち時間」の短縮へと視点をがらりと変えたことだ。ホスピタリティ向上を目指す病院全体の方針に沿いイライラさせないための4カ条を取り決めた。 『こころの待ち時間』短縮の4カ条 ●待ち時間への真摯な謝罪 ●患者より先に背を向けない ●患者情報を基に採血時の声かけの工夫 ●患者の声(苦情)を聴く意思表示指差しカード 永谷氏は、一連の改革により患者満足度や職員満足度が向上し、それが職員の意欲向上、積極的な改善提案へとつながっていると指摘する。 中待合に温熱パックを置き、待ち時間に手を温めてもらう。聴覚障害の患者のために手話を練習し、意志表示の指さしカードを作成する。いずれもスタッフからの提案で取り入れた。検査技術部から看護部門に提案し、マッチングの仕組みを新人看護師の採血トレーニングにも活用している。 古川技師長は、「みんなが良くしようという雰囲気があり、苦情が一つ来ても『なぜなぜ分析』をして解決案を考えていくといういいサイクルが回っている」と成果を指摘する。「この流れを途切れさせずにいきたい」。さらなる患者満足度の向上へ好循環のサイクルをこれからも回し続けていくことにしている。(MTJ本紙 2025年1月1日号に掲載したものです)
姫路赤十字病院(兵庫県姫路市、560床)の検査技術部が、外来採血に対する患者満足度を高めるための取り組みを続けている。2016年以降、最大1時間あった待ち時間の短縮へ多職種チームで改革を続け、採血の難易度と採血スキルとのマッチング方法、患者の導線などに工夫を凝らす。一連の取り組みは、患者満足度と職員満足度の向上につながり、現場からの積極的な改善提案が上がる好循環が生まれている。 姫路赤十字病院 病院は110年の歴史を持ち、高度急性期・急性期病院として人口約83万人の医療圏で中核の役割を担う。特色の一つががん診療。地域がん診療連携拠点病院の指定を受け、地域で最多の症例実績を持つ。外来採血でも化学療法患者が多い特徴がある。 外来採血を担当する採血係は、永谷達也係長、臨床検査技師3人(臨時職員)、看護師4人の計8人で、常時6人が日々の採血に当たる。採血台は7台あり、必要時には同じ検体検査第二課である輸血・血液検査係が応援に入る。また、一般の受け付けより30分早い朝8時からの早出当番を検査技術部全体で対応している。採血室◆廊下にあふれる状況を解消 採血室前の廊下にあふれる患者をなくす―。外来採血の改革は2016年、予算をあまりかけない、いわば「手づくり」の取り組みから始まった。 「ずっと以前から病院全体として取り組まないといけない課題だった」。古川惠子技師長はそう回顧する。採血台4台、中待合はなく、受け付けは全て有人カウンターでの対面。外来患者数の増加に伴い、受け付けから採血までの平均待ち時間は40〜50分へと延長し、混雑する朝は1時間を超える。患者は廊下にあふれ、座る場所もない。採血の順番がきたときには患者はすでにイライラしていて非協力的。失敗をしないようにと採血担当者は過度に緊張する。TQM改善活動の一環で多職種チームを組織し、そんな悪循環を解消するための試みを始めた。採血順が分かる番号札 まず取り組んだのは「採血順番の見える化」。バーコードの付いた短冊状の番号札を受付時に渡し、カウンターのディスプレーに現在の採血番号を表示する。簡単な仕組みだが、自分の順番までどのくらい待ち人数がいるかだけは分かるようになった。また、患者情報の共有も始めた。「難しい人リスト」のノートを作り、採血部位のほかに、「右手前腕温めて」など採血時に気付いたことをコメントとして残した。 しかしそれだけでは、廊下に患者があふれる状態は解消できない。最大待ち時間は60分から46分へと短縮したが、「イライラを抑える、採血の成功率を上げるのが精いっぱい」(古川氏)。新設した中待合室 その後、5年越しの要望が認められ、病院の外来再編の動きに合わせて、40人が座れる中待合の設置が決定した。それを機に、採血業務支援システムの導入へと踏み出す。業務支援システムや自動受付機2台などの導入が決まり、多職種で外来運用ワーキングを設け、スムーズな患者動線を検討。2022年から運用を始めた。◆難易度とスキルをマッチング 新システムでは、患者の採血難易度と採血スキルをいずれも5段階でランク分けし、両者のランクが合うようにマッチングする。導入した業務支援システムの機能だが、約6万5000件の穿刺情報を基にシミュレーションを重ね、オリジナルのランク分けを決めた。 具体的には、血管状態が良好で穿刺部位が正中を「簡単」のランクに設定。穿刺部位が左右手背などでも血管状態が良好であれば「普通」とし、血管状態が硬い等で穿刺部位が手首だと「超困難」、血管状態が深い等で穿刺部位が左右足背等だと「困難」にすると決めた(下図)。 一方、「簡単」の採血ができるスキルを5段階の下から2番目の「2」に設定。「普通」をスキル3、「困難」はスキル4、「超困難」をスキル5とし、それぞれのスキルをクリアしたスタッフが担当する。スキル1は練習中で患者から採血しない。 ポイントは、「簡単」の割合にある。1割いる初採血を除いた患者の半分程度になるよう「簡単」を定義付けした。古川氏は、患者から不満が出やすい採血順の変更を避けるためだと狙いを説明する。「採血スキルを持つスタッフであれば誰でも採血できる患者が半数いる。『簡単』しか取れない『2』のスタッフのときでも順番を変えずに済む」。 患者の情報は、業務支援システムを通じて共有する。採血時に、穿刺部位や穿刺回数、使用針のゲージ、失敗理由などのほか、「しっかり止血」「採血本数を言わない」「聴覚障害」などのコメントを残し、次の採血者に引き継ぐ。 このほか、受付時の流れをスムーズにするため、オーダリングシステム上のコメントの有無で患者を振り分けるルールも取り入れた。外来化学療法の患者の優先番号付番や何らかの事前確認が必要なときなどは医師や医療秘書がコメントを入れ、コメントがある患者は有人の受付へ、コメントがなければ自動受付機へと誘導する。受付時の混雑を避けるためだという。◆「こころの待ち時間」を短縮 この取り組みにより採血待ち時間は現在、最大27分、平均11分に短縮した。古川氏は、「混雑時でも待ち時間が30分を切れたのは成果」と話す。 ユニークなのは、ここからさらに待ち時間の短縮を追い求めるのではなく、「こころの待ち時間」の短縮へと視点をがらりと変えたことだ。ホスピタリティ向上を目指す病院全体の方針に沿いイライラさせないための4カ条を取り決めた。 『こころの待ち時間』短縮の4カ条 ●待ち時間への真摯な謝罪 ●患者より先に背を向けない ●患者情報を基に採血時の声かけの工夫 ●患者の声(苦情)を聴く意思表示指差しカード 永谷氏は、一連の改革により患者満足度や職員満足度が向上し、それが職員の意欲向上、積極的な改善提案へとつながっていると指摘する。 中待合に温熱パックを置き、待ち時間に手を温めてもらう。聴覚障害の患者のために手話を練習し、意志表示の指さしカードを作成する。いずれもスタッフからの提案で取り入れた。検査技術部から看護部門に提案し、マッチングの仕組みを新人看護師の採血トレーニングにも活用している。 古川技師長は、「みんなが良くしようという雰囲気があり、苦情が一つ来ても『なぜなぜ分析』をして解決案を考えていくといういいサイクルが回っている」と成果を指摘する。「この流れを途切れさせずにいきたい」。さらなる患者満足度の向上へ好循環のサイクルをこれからも回し続けていくことにしている。(MTJ本紙 2025年1月1日号に掲載したものです)