〈レポート〉医科歯科連携に検査部が貢献 西宮市医師会診療所 西宮市医師会(兵庫県西宮市)は、唾液検体による歯周病スクリーニングを活用した歯周病検診を2023年から西宮市歯科医師会と共同で展開している。開始に当たっては同医師会診療所の臨床検査部が、検体検査業務とともに、歯周病検診で活用する報告書様式の作成に関与した。現在は人間ドックの追加メニューとして提供しているが、今後、人間ドック以外にも対象者を拡大する方針で、併せて進めている判断基準の作成、報告書様式の改訂作業でも大きな役割を臨床検査部が担っている。 西宮市医師会 西宮市医師会診療所は健診・臨床検査事業を展開し、西宮市の特定健康診査・特定保健指導、学校健診のほか、住民向けの人間ドックも提供している。臨床検査部では、健診部門での検体検査とともに会員施設からの受託検査も行っている。 西宮市医師会が医科歯科連携による歯周病検診を始めたのは、人間ドックの追加オプションとして唾液による歯周病検査を導入する検討を始めたことがきっかけ。糖尿病や動脈硬化性疾患と歯周疾患との関連については歯科医師の関心も高く、歯周病と生活習慣病の治療を同時に進めることで双方の治療効果も高まるとして、歯科医師会側からも連携強化を持ちかけられていたことも理由の一つ。 一方で、ここ数年で唾液中のヘモグロビン(Hb)と乳酸脱水素酵素(LD)の濃度に基づくスクリーニング技術が唾液検査として実用化された。内科的なアプローチで歯周疾患の治療につなげることが可能になり、2023年秋から人間ドックでの唾液検査がスタート。現在は唾液検査によるHbとLDの測定結果とともに、この2つの項目に問診結果を組み合わせたリスク評価結果を報告している。 ◆新たな歯周病リスクの判定基準を作成 ドックのメニューとして導入した歯周病検診は今後、特定健診受診者にも対象を広げることを検討。また、より適切な受診勧奨につながる歯周病リスクの判定基準についても医師会と歯科医師会が共同で2023年から作成を始めている。作成作業では医師会診療所の臨床検査部がデータの分析・評価などを行い、大きな役割を発揮している。 判断基準の作成に当たっては、2023年1月に、市内14の歯科医療機関の協力を得て、歯科受診者約100人に歯周病検査と唾液検査を実施する臨床研究を実施した。臨床検査部が唾液検査の性能評価を行った。 検体は市販されている唾液検体専用の採取容器を使い、検査部内で日常使用している便潜血測定装置と生化学分析装置で分析・評価した。 108人の検体を検討したところ、HbとLDの濃度がいずれも陰性で低リスクと判定されたグループでも歯科医師の診断の結果、「歯周病あり」とされた割合が37%となった。また、2項目とも陽性だった高リスクグループでは46%が「歯周病なし」と診断されるなど、唾液検査だけでは感度が47%にとどまり、判定感度向上が課題とされた。 このため、事前の問診内容を加味することを検討。歯の動揺度や歯茎の状態などの問診結果をスコア化して検査結果と組み合わせることで感度96%、特異度40%を達成し、高精度にハイリスク者の抽出が可能になった。臨床検査部の丸岡康子技師長は、「問診項目だけでは感度だけが高くなり、特異度は上がらなかった。そこにHbとLDの測定値を組み合わせることでおおむね妥当な結果が得られた」と話す。 ◆結果報告書などの様式も変更 唾液検査と問診結果を組み合わせた判定基準は、9月に横浜市で開かれた日本人間ドック・予防医療学会で同診療所臨床検査部の谷中美月氏が一般演題で発表している。判定基準は今年秋以降に導入する予定で、「検査結果報告書」や、検診医が検診受診者に渡す「歯科医受診依頼書」の内容にも反映させる計画にしている。 検査結果報告は、これまでも見やすさを意識してきたが、歯周病リスクをグラフ化し、リスクに応じてグラデーションを付けた配色とすることで、より視覚的にリスクを認識しやすい図表とした。これまで記載がなかった問診内容と併せ、生活習慣病関連の血液検査結果も表記できるようなレイアウトとする。歯科医療機関を受診する必要性がより分かりやすくなり、診察を促す効果を期待している(図1)。図1 報告書の改訂 歯科医受診依頼書は、自由記述だった「検査内容および結果」の記述を定型化し、現在の歯数や歯周病の程度分類、歯の動揺度、歯肉の腫れなどを定量的に書き込むように改める。また歯ごとの動揺度や出血の状況を図で示し、一覧性を高める工夫も盛り込む方針。 ◆7月から4施設で試行 2024年7月からは、医師会役員の4施設で特定健康診査を受ける住民に対して、歯周病検診の受診を勧める試行運用を開始している。生活習慣病との関連性を説明し、唾液検査を促して意識付けを図る。作成した判定基準も試行運用し、改善点を洗い出す。 歯周病検診を市民へ普及させていくためには、行政サービスとしての検診に位置付けてもらうことも重要となる。西宮市では、歯周疾患検診を一定の年齢での節目検診として実施しているが、検診の内容は、歯科医療機関で完結する一般的な内容にとどまる。このため、同市医師会と歯科医師会は、歯周病検診を行政検診の一つとするよう以前から要望。今年度は、受診者が低い負担額で検診を受けられるような財政措置を含めて要望することにしている(図2)。図2 医科歯科連携による歯周病検診の新体制案 ◆歯周病の判定「変える可能性ある」 同市医師会診療所臨床検査部の松尾収二顧問(前天理よろづ相談所病院臨床検査部長)は、判断基準作成のため、検査データや問診情報など大量のデータを収集・分析、検証する役割を臨床検査技師が担い、臨床医が評価する作業を繰り返してきたと指摘。「歯周病検診を歯科医師会との共同事業として構築できたというだけでなく、これまで一般的に運用されてきた歯周病領域での判定基準を変える可能性がある」との見方を示し、医科歯科連携の枠組みづくりに臨床検査部が大きく関与した点を評価した。 丸岡氏もデータ分析や評価を臨床検査部が担い、その結果を医師会幹部に理解してもらったとのプロセスを踏んだと話した。「歯科医師会の先生方との関係も構築できた。検査部の検査技師全体で判定基準をさらにより良いものにできるようエビデンスを集積し、評価を続けたい」と今後の取り組みに意欲を示している。(MTJ本紙 2024年10月1日号に掲載したものです)
西宮市医師会(兵庫県西宮市)は、唾液検体による歯周病スクリーニングを活用した歯周病検診を2023年から西宮市歯科医師会と共同で展開している。開始に当たっては同医師会診療所の臨床検査部が、検体検査業務とともに、歯周病検診で活用する報告書様式の作成に関与した。現在は人間ドックの追加メニューとして提供しているが、今後、人間ドック以外にも対象者を拡大する方針で、併せて進めている判断基準の作成、報告書様式の改訂作業でも大きな役割を臨床検査部が担っている。 西宮市医師会 西宮市医師会診療所は健診・臨床検査事業を展開し、西宮市の特定健康診査・特定保健指導、学校健診のほか、住民向けの人間ドックも提供している。臨床検査部では、健診部門での検体検査とともに会員施設からの受託検査も行っている。 西宮市医師会が医科歯科連携による歯周病検診を始めたのは、人間ドックの追加オプションとして唾液による歯周病検査を導入する検討を始めたことがきっかけ。糖尿病や動脈硬化性疾患と歯周疾患との関連については歯科医師の関心も高く、歯周病と生活習慣病の治療を同時に進めることで双方の治療効果も高まるとして、歯科医師会側からも連携強化を持ちかけられていたことも理由の一つ。 一方で、ここ数年で唾液中のヘモグロビン(Hb)と乳酸脱水素酵素(LD)の濃度に基づくスクリーニング技術が唾液検査として実用化された。内科的なアプローチで歯周疾患の治療につなげることが可能になり、2023年秋から人間ドックでの唾液検査がスタート。現在は唾液検査によるHbとLDの測定結果とともに、この2つの項目に問診結果を組み合わせたリスク評価結果を報告している。 ◆新たな歯周病リスクの判定基準を作成 ドックのメニューとして導入した歯周病検診は今後、特定健診受診者にも対象を広げることを検討。また、より適切な受診勧奨につながる歯周病リスクの判定基準についても医師会と歯科医師会が共同で2023年から作成を始めている。作成作業では医師会診療所の臨床検査部がデータの分析・評価などを行い、大きな役割を発揮している。 判断基準の作成に当たっては、2023年1月に、市内14の歯科医療機関の協力を得て、歯科受診者約100人に歯周病検査と唾液検査を実施する臨床研究を実施した。臨床検査部が唾液検査の性能評価を行った。 検体は市販されている唾液検体専用の採取容器を使い、検査部内で日常使用している便潜血測定装置と生化学分析装置で分析・評価した。 108人の検体を検討したところ、HbとLDの濃度がいずれも陰性で低リスクと判定されたグループでも歯科医師の診断の結果、「歯周病あり」とされた割合が37%となった。また、2項目とも陽性だった高リスクグループでは46%が「歯周病なし」と診断されるなど、唾液検査だけでは感度が47%にとどまり、判定感度向上が課題とされた。 このため、事前の問診内容を加味することを検討。歯の動揺度や歯茎の状態などの問診結果をスコア化して検査結果と組み合わせることで感度96%、特異度40%を達成し、高精度にハイリスク者の抽出が可能になった。臨床検査部の丸岡康子技師長は、「問診項目だけでは感度だけが高くなり、特異度は上がらなかった。そこにHbとLDの測定値を組み合わせることでおおむね妥当な結果が得られた」と話す。 ◆結果報告書などの様式も変更 唾液検査と問診結果を組み合わせた判定基準は、9月に横浜市で開かれた日本人間ドック・予防医療学会で同診療所臨床検査部の谷中美月氏が一般演題で発表している。判定基準は今年秋以降に導入する予定で、「検査結果報告書」や、検診医が検診受診者に渡す「歯科医受診依頼書」の内容にも反映させる計画にしている。 検査結果報告は、これまでも見やすさを意識してきたが、歯周病リスクをグラフ化し、リスクに応じてグラデーションを付けた配色とすることで、より視覚的にリスクを認識しやすい図表とした。これまで記載がなかった問診内容と併せ、生活習慣病関連の血液検査結果も表記できるようなレイアウトとする。歯科医療機関を受診する必要性がより分かりやすくなり、診察を促す効果を期待している(図1)。図1 報告書の改訂 歯科医受診依頼書は、自由記述だった「検査内容および結果」の記述を定型化し、現在の歯数や歯周病の程度分類、歯の動揺度、歯肉の腫れなどを定量的に書き込むように改める。また歯ごとの動揺度や出血の状況を図で示し、一覧性を高める工夫も盛り込む方針。 ◆7月から4施設で試行 2024年7月からは、医師会役員の4施設で特定健康診査を受ける住民に対して、歯周病検診の受診を勧める試行運用を開始している。生活習慣病との関連性を説明し、唾液検査を促して意識付けを図る。作成した判定基準も試行運用し、改善点を洗い出す。 歯周病検診を市民へ普及させていくためには、行政サービスとしての検診に位置付けてもらうことも重要となる。西宮市では、歯周疾患検診を一定の年齢での節目検診として実施しているが、検診の内容は、歯科医療機関で完結する一般的な内容にとどまる。このため、同市医師会と歯科医師会は、歯周病検診を行政検診の一つとするよう以前から要望。今年度は、受診者が低い負担額で検診を受けられるような財政措置を含めて要望することにしている(図2)。図2 医科歯科連携による歯周病検診の新体制案 ◆歯周病の判定「変える可能性ある」 同市医師会診療所臨床検査部の松尾収二顧問(前天理よろづ相談所病院臨床検査部長)は、判断基準作成のため、検査データや問診情報など大量のデータを収集・分析、検証する役割を臨床検査技師が担い、臨床医が評価する作業を繰り返してきたと指摘。「歯周病検診を歯科医師会との共同事業として構築できたというだけでなく、これまで一般的に運用されてきた歯周病領域での判定基準を変える可能性がある」との見方を示し、医科歯科連携の枠組みづくりに臨床検査部が大きく関与した点を評価した。 丸岡氏もデータ分析や評価を臨床検査部が担い、その結果を医師会幹部に理解してもらったとのプロセスを踏んだと話した。「歯科医師会の先生方との関係も構築できた。検査部の検査技師全体で判定基準をさらにより良いものにできるようエビデンスを集積し、評価を続けたい」と今後の取り組みに意欲を示している。(MTJ本紙 2024年10月1日号に掲載したものです)