〈第15回〉医療需要推計編
- kona36
- 3月7日
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神戸 翼(永生総合研究所 所長/臨床検査技師)
今回のキーワード
●医療需要予測と政策誘導
●年齢別受療率
●地域の年齢別将来推計人口とレセプトデータ
国が行うこと一つ一つを事業サービスとして捉えると、お客さんは国民でお金を出すのも国民です。その意味でも人口変化を把握することが重要で、特に医療施設や医療従事者といった提供体制には大きな影響を与えます。今回は、この人口変化を踏まえた医療需要推計について考えてみたいと思います。
◆高齢者人口の推移と医療需要変化
経済的に見れば、医療にも「需要(ニーズ)」があってそれを満たすように「供給(医療サービス)」があります。一方で、そのようなニーズは年齢によって大きく異なることが明らかになっています。国では医療機関を受診する患者割合を「受療率」という言葉で表現し、定期的に患者調査を行っていますが、直近2020年の調査では65歳以上の受療率は15~64歳の受療率の約3倍で、高齢者が多く医療機関を受診していることが分かります。そして、この年齢別受療率と2045年までの人口推計を掛け合わせることで、日本全体や各地域における医療需要予測が可能となるわけです。
国が進めるさまざまな医療政策は、こうした視点を持って、入院医療のピークアウトはいつ来るのか、外来医療の場合はどうか、はたまた在宅医療ではどうなるのかを予想し、財源を見据えて地域医療構想や診療報酬改定などを通した政策誘導を進めています。日本全体では、入院医療のピークは2040年、外来医療は2025年、在宅医療は2040年以降になると厚生労働省の会議体などで言及されていますが、それぞれ各都道府県や2次医療圏単位で大きく異なっています。
◆診療行為別・疾患別・検査項目別で考える
医療需要は地域の人口構成によって大きく変わるため、全国規模で見るだけではミスリードになります。加えて、病院経営や部門マネジメントの視点で見ると、地域の入院・外来・在宅という切り口だけでなく、診療行為別や疾患別の視点も重要で、検査部門であれば生理検査や検体検査など、検査項目別のニーズ予測が気になるところです。こうした診療行為別や疾患別、検査項目別に未来を予測するためには、前述の地域ごとの年齢別将来推計人口に、厚労省が集めるレセプトデータ等を掛け合わせることで傾向が見えてきます。実際に①東京都文京区②鳥取県米子市③青森県弘前市―の3地域について、2025年をベースに20年後の2045年にどのように変化するかを示したのが下の表です。各数値に関する細かい解説は別の機会としますが、地域毎の年齢分布が数値に大きく影響していることが分かります。

◆需要に応じた臨床検査技師の必要性
こうして属性別で地域に応じたデータを見ていくと、いくつかの傾向が見て取れます。例えば、大都市では高齢者は増え続け、医療ニーズが高まり、外来診療および臨床検査ニーズも増加していきます。疾患別や検査項目別に増減の度合いはありますが、総じて増加することに変わりはなく、人材確保という部分が検査部門としてのイシューになりそうです。一方で地方では、中核都市かそうでないかにも大きく左右され、前者は入院ニーズはほぼ変わらないが外来ニーズは減少する、後者は入院ニーズも外来ニーズも減少するという大枠の整理ができそうです。総じて、地方では外来患者は減少し、疾患別や検査項目別によってもニーズが変化することが予想されます。このように地方部でのイシューは、検査部門として検査件数・総点数を維持することができるのか、維持できない場合は検査人材がよりフレキシブルな形で働ける仕組みづくりが必要となる可能性が高いです。また、技師個人としても1領域だけのスペシャリストから2つ、3つとサブスペシャリティを持ち横断的に臨床検査業務を行うことができる人材の必要性が垣間見えます。地域により医療需要は大きく変化し、臨床検査技師としての働き方が問われる時代です。次回取り上げる「医療供給推計」の視点も併せて、今後の人員計画や医療機器購入・更新、医療DXの検討がますます重要だと感じています。
(MTJ本紙 2024年11月1日号に掲載したものです)
神戸 翼
PROFILE |慶應大学院で医療マネジメント学、早稲田大学院で政治・行政学を修め、企業、病院、研究機関勤務を経て現職。医療政策と医療経営を軸に活動中。