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〈第14回〉病院経営情報報告制度編

  • kona36
  • 2月6日
  • 読了時間: 5分

神戸 翼(永生総合研究所 所長/臨床検査技師)

 

今回のキーワード

病院の経営主体

民間病院と公立病院

医療法人の経営情報報告制度

 
 医療機関が倒産する可能性は大きくありませんがゼロではありません。事実、2024年上半期の倒産医療機関は18件と東京商工リサーチの調査で報告されています。今回はこうした事実も踏まえて、医療機関経営の実態と経営情報に関連した施策について考えてみたいと思います。

病院経営主体はさまざま、約7割は民間病院

 直近2022年の厚生労働省・医療施設調査では、日本には8156施設の病院があり、その数は年々減少傾向にあります。また、病床数の年次推移においても減少傾向となっています。これは地域医療構想をはじめとする医療政策によって病院・病床数の効率化が進められていることが関係しています。そのような日本の病院は、さまざまな経営主体が存在し、国立、公立、公的、医療法人、学校法人、社会福祉法人、企業立など細かく分類すると30以上の経営主体の存在が確認でき、他の業界のサービスと比べても特徴的な部分です。また、その中でも特に医療に特化した事業を行う医療法人、いわゆる民間病院が5658施設と約7割を占めています。これは、日本の医療の特徴でもある民間主体の医療インフラ体制に繋がっています。また、病床規模でみると20~199床の病院が約7割を占め、歴史的な背景として地域の診療所が病床を増やしていき病院になっていったという経緯が垣間見えます。

 このように民間である医療法人を主体とした地域に根付いた柔軟な医療提供体制は、サービス効率と効果的な保健医療の普及に繋がり、ニーズに柔軟に対応できるという利点があります。その反面、ハコもの競争や過剰供給、地域偏在などの原因にもなり、病床数のコントロールの困難さと公権力による強制が難しいというデメリットにも繋がっています。今般の新型コロナウイルス流行では、特にこの公権力による強制が難しいがゆえに、都道府県や市区町村単位などの感染症対応が不十分となったケースも見受けられました。

健全経営の意識高い民間、赤字傾向にある公立病院

 病院や診療所、介護施設などへの資金融通を行う独立行政法人福祉医療機構(WAM)の2021年度調査によれば、一般病院の30.1%、療養型病院の26.0%、精神科病院の31.8%が赤字と報告されています。また、厚生労働省の第24回医療経済実態調査(2023年5月調査)では、損益差額(医業収益と医業等費用の差分)の割合は、国立で-8.7%、公立で-19.9%、公的で-5.7%、医療法人で-1.3%と全てで赤字であることがわかっています。そこにコロナ補助金を上乗せしてようやく、国立で3.9%、公立で-7.1%、公的で4.4%、医療法人で3.3%になりますが、公立病院では、コロナ補助金を上乗せしても赤字の病院が多い状況にあります。

 総じて民間病院が健全経営を頑張っている反面で、赤字体質が抜けない公立病院が多いことはかねての課題となっており、公立病院を所管する総務省(厚生労働省ではないことも1つのハードルといわれている)でも公立病院改革プランを各施設に策定させて、健全経営を目指す試みが進められています。

 なお、公立病院と民間病院の経営状況を比較する際に言及されることとしては、公立病院の人件費や減価償却費(建物などのハコものや高額医療機器の購入費用)の高さが指摘されることが少なくありません。また、民間病院経営者からは自治体からの赤字補填とも捉えられる繰入金が公立病院の経営に対する危機感を薄めているとの指摘も聞かれています。

透明化を迫られる医療機関経営

 そんな中、医療法改正により2023年8月1日より施行されたのが医療法人の経営情報報告制度です。原則全ての医療法人が報告対象となっており、施設単位の収益や費用だけでなく、職員の職種別人数や給与総額の報告も必要となっています。この制度創設の背景には、1つに医療法人という民間医療機関の経営状態を国がしっかりと把握できる仕組みを作ることがあります。そして、医療が置かれている現状を国民に説明していくための経営情報データベースを構築し、病院や診療所の運営の透明性を図り、効率化を促進すること、また今般のコロナウイルス感染拡大で露呈した経営状況が把握できていないがための支援体制の遅れなどを是正する意図があります。さらには、この制度を活用することで、医療法人だけにとどまらない全国の病院等の経営情報が見える化され、持続可能な医療提供体制に向けた政策検討や今後も想定される物価上昇、災害、新興感染症等に対する的確な支援策の検討、医療従事者の処遇改善の適正化に繋がると考えられています。

 一病院として考えれば、経営情報データベースが作られたところで、そこまで大きなプレッシャーがかかる想定はされませんが、業界全体として効率的な運営が促進されるという意味では、診療報酬などによる政策誘導が想定され、財務状況、人員配置、サービスの質という点に直接的または間接的に影響を及ぼす可能性が考えられます。

 つまり、医療技術部門や臨床検査室としてはコスト管理や業務効率化、人員配置、給与をはじめとした処遇の見直しなどが、病院経営者や管理部門から振ってくる可能性が大きくなり、部門マネジメントの重要性が増すこと、また指標を用いた他施設ベンチマーク比較なども重要なノウハウの1つとなることが想定されます。経営効率化という言葉の意味を理解することは、一職員の給与、はたまた部門としての給与総額が見合う院内オペレーションができているのかと考えることが可能です。医療DXの波と合わせて突き付けられたこの課題に、いよいよ向き合っていく必要性が出てきています。


(MTJ本紙 2024年10月1日号に掲載したものです)

 

神戸 翼

PROFILE 慶應大学院で医療マネジメント学、早稲田大学院で政治・行政学を修め、企業、病院、研究機関勤務を経て現職。医療政策と医療経営を軸に活動中。

2024.06.03_記事下登録誘導バナー_PC.png

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