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〈インタビュー〉大﨑博之さん(神戸大学大学院保健学研究科 病態解析学領域)「日常業務から見つかる課題への意識を」


 インタビュー「きらり臨床検査技師」は検査技師としての本来業務だけでなく、所属施設外で精力的な活動を行っている方、興味深いテーマや研究に打ち込んでいる方、ユニークな資格や経歴を持つ方など、編集部が“きらり”と感じた検査技師を紹介します。(MTJ編集部)

 
 臨床検査技師にとっての活躍の場は、医療機関の検査部門や検査センター、検査関連企業など幅広いが、大学の研究・教育職として学術論文をまとめたり、次世代の臨床検査技師の卵たちを育成するといった役割もある。
 神戸大学大学院保健学研究科の准教授・大﨑博之さんは、地方の公的病院に入職し、病理検査を中心に15年の臨床検査技師としてのキャリアを積んだ。30代半ばで社会人学生として大学院へ進学し、病院の日常業務で疑問に感じていたことをテーマとした研究に励み、複数の英語論文をまとめた。現在は大学教員となり、研究と教育に携わる日々を過ごす。
 大﨑さんが心がけていることは「日常業務で気付いた問題に注目し、改善策を考えて取り組んでいくこと」。研究は何も特別なことではなく、多くのテーマは日々の検査業務の中に隠れているというメッセージだ。
 
◆日常業務で抱いた疑問が研究テーマに

―15年の病院勤務を経て、研究や教育職に進むきっかけを教えてください。
 地元の高知県で臨床検査技師養成校を卒業したのが1991年、大変な就職難の時代でしたが、なんとか非正規雇用で四国がんセンターに採用され、2年目に正規雇用になりました。学生のころから興味のあった病理検査に配属され、細胞検査士の資格を取得するため業務終了後に勉強に励んでいたのを思い出します。

 細胞検査士の資格取得がきっかけとなり、細胞検査士がいなかった香川県内の中規模病院に転勤になりました。院内業務は病理検査がメインでしたが一般検査にも駆り出される中で、疑問に思う事が出てきたんです。

 病理検査の尿細胞診は、尿路腫瘍を見つけるのが主目的です。一方、一般検査の尿沈渣は尿路の炎症を見つけることが主目的で、赤血球や白血球、尿細管上皮細胞、円柱などを観察します。尿細胞診と尿沈渣では見つけようとしている疾患や観察対象が異なりますが、いずれの標本も尿を遠心沈殿して得られた沈渣成分から作製されます。そこで私は「尿細胞診にも腎臓由来の尿細管上皮細胞などが出現するのではないか?」と考え、それを研究テーマにしました。日常の検査業務の傍ら、尿細管上皮細胞の特徴に注目して研究を進め、その結果を論文にまとめて学術誌に投稿するようになりました。

―テーマを見つけて研究、分析したりすることは好きだったのでしょうか。
 臨床検査技師という職を選んだのも、研究業務に励むようになったのも、最初から自分自身が強く志望したわけではありません。高校生のころは、明確に就きたい仕事があったわけでなく、将来のイメージがないままぼんやり過ごしていた記憶がありますね。看護師だった母親が進路選択の時期に紹介してくれたのが臨床検査技師でした。勉強も好きではなかったですし、なんとなく進学した感じです。

 ただ、養成校の授業で臨床検査の知識や技術を勉強する中で、顕微鏡で組織・細胞を観察する形態学を好きになりました。当時まだ用手法が主体であった病理検査は臨床検査技師それぞれの技量が発揮でき、職人的ですごく魅力を感じました。国家試験に向けて準備するうちに、勉強の要領やコツが理解できるようにもなりました。臨床検査技師として現場に出てからは、目の前の仕事に取り組む中で疑問が湧いたり、課題を見つけたりして、それらに対して解決策はないか考えるようになりました。それが研究に結び付いたんです。

◆30代半ばで大学院進学、新たなチャレンジへ

―病院を辞めて大学院進学、さらに研究、教育職を目指した理由を教えてください。
 香川県の病院で、日常の検査業務をこなしながら論文を書いて、学術誌に投稿したりしていたのですが、激務で体調を崩してしまいました。当時の職場では、一生懸命仕事をしていても報われないような気持ちになってしまって。臨床検査技師を辞めようかなと思った時期もありました。

 そんな時、声をかけていただいたのが香川大学の病理医の先生です。私の研究成果を評価してくださり、「社会人大学院が開設されるので来ないか?」と誘いを受ける形で、35歳で社会人学生として大学院に進学することを決意しました。同じタイミングで香川県立保健医療大学に助教として就職することも決まり、働きながら研究できる環境が整いました。その後、40代半ばで「もうひと頑張りしてみよう」と思い、四国から飛び出して神戸大学の教員となって8年目になります。

 大学教員として働いている間も、全て順風満帆だったわけではなかったです。仕事がうまくいかない時は、家族と一緒に過ごす時間を大切にしてましたね。転職に伴う引っ越しで、子どもたちも転校が必要でした。子どもたちが新しい地域になじめるように、私と妻、小学生の娘2人で新極真空手を始めたんです。「娘たちの前で、格好悪い姿を見せられない」と思ってそれなりに練習して、新極真空手の四国大会の45歳以上部門で2連覇するまでになったんですよ(笑)。

 改めて振り返ると、職場環境を変えたタイミングは、自分自身にとって新たなチャレンジが必要な時期だったのかなと思います。社会に出て一つの職場で、少しずつ経験を積みながら成長していくと、そのまま同じ環境に居続けることが良いのかを考える時期があるのではないでしょうか。自分が置かれている環境を窮屈に感じたり、何か殻を破りたい気持ちが高まっているようであれば、新たな環境に飛び込むことも必要なのかもしれません。

◆日常業務の課題解決そのものが「研究」

―ご自身のキャリアを踏まえて、若手の臨床検査技師にアドバイスをお願いします。
 私の場合は、中小規模病院の検査業務の中で、病理検査だけでなく一般検査に携わったことが、研究テーマにつながる疑問を持つきっかけになりました。専門領域だけでなく、さまざまな検査業務を経験することができたことで視野が広がったと思います。

 「研究」というと特別なものと捉え、何か難しくて自分には無理と考えている方が多いと思います。私自身は研究というものをハードルをもっと下げて考えてよいと考えています。どんな職場でも大なり小なり日常業務で発生する課題や問題は出てきます。それを解決するためにはどうしたらいいかと考える。それを「研究」と置き換えてもいいと思います。まずは、自分が日常業務で気付いた問題に対して、小さなことでも解決策を考えることは大事だと思います。

 若手の皆さんには、まずは与えられた場所で地に足を着けて、自分に任された業務をしっかりこなせるようになることを目指してほしいです。ある程度、周りに認められ、一人前になれば、自分の周囲にも目を向けることができるようになり、気付くことも増えてくると思います。その中からテーマを見つけ、改善策を考えてみてほしいです。


2024.06.03_記事下登録誘導バナー_PC.png

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