top of page

〈インタビュー〉中川裕美さん(倉敷中央病院リバーサイド臨床検査室)「検査データを基に糖尿病患者の療養支援」


 インタビュー「きらり臨床検査技師」は検査技師としての本来業務だけでなく、所属施設外で精力的な活動を行っている方、興味深いテーマや研究に打ち込んでいる方、ユニークな資格や経歴を持つ方など、編集部が“きらり”と感じた検査技師を紹介します。(MTJ編集部)
 
 糖尿病治療では患者自身が日常生活の血糖を管理し、食事・運動療法、薬物療法に取り組むことが重要だ。臨床検査技師は、自己血糖測定(SMBG)機器の使い方の説明や、CGM(持続グルコースモニタリング)の装着や解析、検査データを基にした生活改善のアドバイスなどを通じて患者を支え、医師や看護師、栄養士などで構成する療養支援チームの一翼を担うことが求められている。
 倉敷中央病院リバーサイド(岡山県倉敷市、130床)臨床検査室主任の中川裕美さんは、新卒で入職後まもなくSMBGの患者説明を任された。SMBGが臨床現場で使われ始めたころで、操作手順をイラストにして示すなど創意工夫するなど分かりやすい説明を心がける中で、患者から感謝される場面が明らかに増えてきた。「患者のためになることをもっとしたい」という思いはさらに強くなり、糖尿病療養指導士の資格を取得。現在は糖尿病診療の多職種チームの一員として活躍している。
 

チームの一員として療養支援チームの一員として療養支援


―院内で携わる検査業務や、糖尿病療養支援について教えてください。
 院内では生化学、免疫、生理機能検査など日常の検査業務を担いながら、糖尿病患者に対応しています。検査室所属の臨床検査技師の約半数が糖尿病療養支援に携わっており、患者にSMBGの機器の使い方を説明し、正しい使い方ができているかを確認しています。最近では、CGMの装着や解析も行っています。糖尿病の療養支援は、食事や運動などを自己管理しながらの日常生活を支えるもので、臨床検査技師が単独でできるものではなく、医師や看護師、栄養士や薬剤師など多職種チームで取り組む必要があります。チームの一員として臨床検査技師は、患者自身に食事や運動療法の必要性を理解してもらえるように検査データを基に働きかけます。
―いつ、どのようなきっかけで糖尿病療養支援に取り組むことになったのですか。
 岡山大学医学部附属の臨床検査技師の養成機関を卒業し、当院の前身である川鉄水島病院に入職して間もないころ、技師長からSMBGの使い方に関する患者説明を任されたことが、最初のきっかけです。1990年代後半で、国内ではまだSMBGが珍しい時代。臨床検査技師も初めて機器を見る状況だったと思います。

 今では、検査企業が患者説明用のパンフレットを用意してくれますし、パソコンやスマホを使えば説明で使えるような参考資料がすぐ手に入ります。ただ、インターネットがない時代にはそうした資料を手に入れることが難しく、患者から質問を受けるたびに「もっと分かりやすく説明できたら」と思っていました。操作手順をイラストで描いたり、操作する箇所が分かりやすいように機器にシールを貼ったりしていましたね。どうしたら使いやすいかを考え、さまざまな工夫を重ねていくと、患者から「ありがとう」とお礼を言われる機会が増えてきました。慣れない機器を使うことの不安が払拭されて、安心して測定していただけることが何よりですし、患者からの感謝の一言が当時とても嬉しくて。「もっと役に立ちたい。次はもっと頑張ろう」という気持ちが強くなっていったことを覚えています。

 2000年代に入ると糖尿病療養支援の重要性が注目され、日本糖尿病療養指導士認定機構が設立されました。2001年からは糖尿病療養指導士試験が始まったのですが、当時、看護師や薬剤師などの他職種と会話する中で、これからの糖尿病療養支援は臨床検査の知識だけでは足りないと感じ始めていたので、さっそく勉強をして試験に合格しました。それからはチームの一員として療養支援に携わる機会が次第に増え、現在につながっています。最近では院内だけでなく、臨床検査技師会の研修会などで糖尿病療養支援についてお話させていただく機会も増えています。

―患者との関わりを大切にされ、やりがいを感じていらっしゃいますが、医療職の中でなぜ、臨床検査技師を選んだのですか。
 吹奏楽部だった高校生のころに気管支を痛めてしまい、病院で心肺機能の検査を受けた際、担当していただいた臨床検査技師の女性がとても格好良く見えて。颯爽と仕事をしている姿が、テレビドラマの主人公のように映りました。それまでは女性が活躍している医療職は看護師、薬剤師しか知らなかったのですが、診察していただいた医師に尋ねたら「彼女は臨床検査技師ですよ」と教えてくれました。

 その時に初めて臨床検査技師という職種を知ったのですが、その医師が次の受診時に、臨床検査技師の養成課程がある岡山大学医学部附属の養成学校の入試案内を手渡してくれたんですね。「君に合っている仕事だと思うよ」とまで言ってくださって。振り返れば、臨床検査技師を目指すことになった運命の出来事だったと思います。
◆検査データを生かして

―糖尿病療養支援で臨床検査技師が生かせる強みはどんなことでしょうか。
 糖尿病を持つ方は、食事や運動面で「○○を“こうしましょう”」と言われることが多く、個人の自由が制限されてストレスを感じる方が多いです。こうした患者の心理にも寄り添いながら、患者自身が食事・運動療法の必要性を理解できるように働きかけることが大事だと思いますね。

 多職種がチームとして動く中で、臨床検査技師の強みは、やはり検査データに基づいて患者状態を客観的に説明できる点になると思います。検査データを丁寧に見せながら体の状態を説明すると、患者から「そういう状態であれば、やはり運動が必要だね」「検査値を改善させるには食事を見直す必要があるね」という声を聞くことができると思います。客観的な数値で示される検査データを上手に説明すると、患者の意識や行動を変えるきっかけになりやすいです。

―若手の臨床検査技師にアドバイスをお願いします。
 臨床検査技師は、検査データを専門的に読み解く知識やスキルを持っています。糖尿病で言えば、血糖値の変動を継続的に確認していく中で、患者の状態がどのように変化しているのか。大幅な変動が見られた時には、どのような原因が考えられるのか。それらを踏まえて、患者にどのようなメッセージを伝えたら良いのかを考えることが重要です。

 地域の中小病院では定期的に受診する患者と顔見知りになり、人柄や性格まで分かることがあります。それらも頭の片隅に置きながら、患者の療養支援に取り組むと良いでしょう。

 臨床検査技師の強みは「検査データから患者状態を客観的に説明できること」。検査データから得られた気付きは患者だけでなく、チームを組んでいる他の医療職と共有することももちろん大事です。そのためのコミュニケーション能力を磨きながら、臨床検査技師だからこそできる情報発信や提案に積極的に取り組んでほしいです。

その他の最新記事

bottom of page