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〈インタビュー〉山本剛さん(大阪大学大学院医学系研究科変革的感染制御システム開発学寄附講座)臨床推論を生かした微生物検査、「検査結果への意見を持つことから始めよう」


 インタビュー「きらり臨床検査技師」は検査技師としての本来業務だけでなく、所属施設外で精力的な活動を行っている方、興味深いテーマや研究に打ち込んでいる方、ユニークな資格や経歴を持つ方など、編集部が“きらり”と感じた検査技師を紹介します。(MTJ編集部)

 

 大阪大学大学院医学系研究科の寄附講座で講師を務める山本剛さん(同大学感染症総合教育研究拠点(CiDER)人材育成部門/同大学医学部附属病院感染制御部)は、市中病院の検査室で働きながら、グラム染色をはじめとした微生物検査に関する話題や感染管理に関する話題など多方面で情報発信していることで注目を集めました。現在は大学で感染症教育に携わっています。微生物検査を始めてから今まで積んできたキャリアについて話を聞いてみました。


 

◆農業の技術開発に興味を持った高校時代


現在のお仕事と、これまでのキャリアを教えてください。

 今は大阪大学大学院医学系研究科の寄附講座で、ちょうど2年前に赴任しました。本職は感染症専門医の育成を中心に感染症に関連した教育コンテンツの作成ですが、教員でもあるので医学部をはじめ医療系の学生や大学院生の指導・教育も行っています。医学部附属病院では、感染症医や他科の医師、病院薬剤師、看護師、臨床検査技師などと連携したり、検査室に出入りして検出された微生物と疾患とのひも付けをしています。


 臨床検査技師としてのキャリアは、神戸大学を卒業し西神戸医療センター(現・神戸市立西神戸医療センター)でスタートしました。その後は神戸市立医療センター中央市民病院に転勤し、2021年に副技師長で西神戸医療センターに復帰しました。


 もともと医療職には興味がなく、進学をきっかけに臨床検査技師の資格を取得して働くことになりました。兵庫県宝塚市の生まれで、父親はエンジニアです。中学・高校時代では化学に興味を持ち、将来は農業を通して世界中の方々と交流を持って、研究開発をして人の役に立ちたいと思っていました。農業と微生物はそこそこつながりがあり、不思議な縁を感じています。


転機は35歳、感染対策チーム(ICT)のリーダーに任命されたこと


―微生物検査や感染症対策に熱心に取り組むことになったきっかけは、何ですか。

 前任地の西神戸医療センターでは、微生物検査の担当になりました。就職して5年目(1998年)に、当時の院長が「これからの医療はチーム医療が必要だ」と提言され、ICTが発足して、チームに入れていただきました。


 ICT活動は、ICTリーダー(血液内科医)を中心に活動を開始しましたが、微生物検査の重要性についても理解が進み、検査室に相談してくる医師が増えました。主な内容は検出菌の臨床的意義と抗菌薬選択で、臨床検査に医学的根拠を付けてアドバイスする機会も増えていきました。


 抗菌薬選択には患者情報や正しい診断、原因微生物の絞り込みが必要で、臨床推論の技術が役に立ちます。グラム染色を用いた臨床推論は、炎症の状態や検鏡で確認された推定菌をつなぎ合わせるために今でも利用しています。アドバイスした症例は、カルテで経過を確認し、成功体験を持って微生物検査の重要性について強く認識することができました。


 しかし、私が35歳のとき(2007年)に、ICTリーダーが突如退職となり、代わりにICTの運営管理を任されることになりました。


◆微生物検査と臨床推論


―ブログ「グラム染色道場」を立ち上げた経緯はどういう背景ですか。

 微生物担当の臨床検査技師として、感染症とどのように向き合うのか?ということを少し突っ込んで考えるようになりました。臨床検査技師は、診断学や臨床推論には関わりが少ないと思いますが、検査値を通して患者の病歴、身体所見、検査所見を統合的につなぎ合わせて診断に結び付けることが楽しくなり、微生物検査にも応用ができるので、さまざまな研究会に参加し、さまざまな方から学ぶようになりました。


 感染症の診断・治療では、微生物検査に特化したものが少なく、知見を自分で備忘録としてまとめ始めました。それが2007年3月に開設した「グラム染色道場」というブログです。ブログは自分だけではなく、誰でも読めるというメリットがあります。今では、SNSを通じた情報発信は一般的ですが、先駆け的な活動をしてきたことは良かったと感じています。


◆前例がないポジションで、新たな仕事に挑戦


―病院検査部から大学へ転職されたのは、なぜですか。

 私と同じ年代になると技師長や副技師長といった検査部の管理運営をする立場となる方も多いと思います。管理職は検査室の運営のためには必要で、部下や同僚が仕事をしやすい環境を与えるのも仕事の一つと思っています。

 

 管理職はジェネラルに物事を俯瞰的に考える力が必要で、専門職は一つのことを深く掘り下げて対応する力が必要です。管理職への道ではなく、専門性を高く評価してくれる場所への異動も一つのスタイルで、キャリアを積んで移籍される方も多いと思います。


 私も2021年に副技師長になり、自分自身の今後のセカンドキャリアについて考えていたところ、大阪大学大学院医学系研究科感染制御学講座の忽那賢志教授からオファーを頂き、大阪大学に移籍することにしました。

―大学での業務やSNSの情報発信など多忙に見えますが、余暇活動や趣味はありますか。

 8歳から野球を始め、中学・高校と野球を続けました。大学からは地元の軟式野球チームに所属し(いわゆる草野球)、毎週末は試合をしていました。そこそこ強いチームで、6年前には軟式野球の全国大会に出たこともあるんですよ。


 野球は、単純に打つ、走る、守るというものでなく、攻撃側と守備側の探り合いが勝敗の分かれ目になります。例えばピッチャーであれば、打席に入る打者の雰囲気や顔色を見ながらどうやって打ち取るのか戦略を立てていきます。それは、病歴や症状から疾患を予測し、原因微生物を推測していくという点では、臨床推論に近いと感じます。


◆成功体験の共有を


―若手の検査技師へのメッセージをお願いします。

 今は、AI(人工知能)を用いたグラム染色機器の開発などにも携わっていますが、AIが「臨床検査技師の仕事を奪う」とは思っていません。AIは人の知能に近いものはできますが、当面は超えることはなく、臨床検査の知識や技術を備えている臨床検査技師の知能が必要で、決して仕事がなくなるというわけではありません。


 臨床検査技師は、若いうちから自分が出した検査結果に対して、自分の意見をしっかりと持ってほしいです。医療ニーズに合ったものを作り上げて、後輩にその技術を伝承していくことにつなげてほしいと思います。成功体験は共有して、互いにモチベーションを高めていければ、もっと臨床検査技師の価値は高くなると思っています。


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