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〈第1回〉なぜ今、AIが期待されているのか? AIリテラシー編(1)


野坂 大喜(弘前大学大学院保健学研究科/医学部保健学科、弘前大学情報連携統括本部情報基盤センター 兼任)


 連載「臨床検査技師が知っておきたい医療AI」は、多くの臨床検査技師がこれから向き合うことになる人工知能(AI)技術について、初心者にも分かりやすく解説していただきます。また、臨床検査領域のAIの現状や課題、今後の展望についても示していただきます。(MTJ編集部)


 
キーワード
ビッグデータ
人工知能
機械学習・深層学習
 

 近年、人工知能(AI)という言葉を私たちの身の回りでよく耳にするようになりました。私たちが利用しているサービスの中にはすでにAIが組み込まれているにもかかわらず、AIが自動応答や自動判断しているとは気付かずに、サービスを利用していることもあります。実際、見聞きこそすれ、AIは裏方で働く技術ですので、AIがどのようにつくられているのか、どのような場面で使われているのかなどを知る機会が乏しいのが現状です。この連載では、現場で活躍する臨床検査技師の皆さまに、医療分野での人工知能技術開発の背景や進展について、特に臨床検査部門でのAIに焦点を当て解説します。


◆ビッグデータとAIがもたらす変化

 ビッグデータとAIは、新たな時代のバックボーンとなる重要なキーワードであり、読者の皆さんも一度は聞いたことがあるかと思います。ビッグデータとは大容量かつ高速に生成されるデータを指し、AIとはコンピューターや機械に人間の知能や思考能力を模倣させる技術や研究の総称を指します。そして、医療機関においてのビッグデータこそが、臨床検査データです。患者の病歴、遺伝子情報、検査結果などの長年の膨大なデータが医療機関には蓄積されており、これらをAI解析することで、個々の患者に適したカスタマイズされた治療法や予防策を見つける手助け(診断支援)や、早期の病気の発見や治療の最適化(医療の効率化)が可能となります。


臨床検査技師が知っておきたい医療AI
図1:「Society5.0」における新たな価値の事例(医療・介護)のイメージ

 図1は、AIの活用によって実現する「Society5.0」における新たな価値の事例(医療・介護)をイメージしたものです。このように、医療ビッグデータとAIの統合は社会全体での健康と医療の在り方に大きな変革をもたらす可能性があります。臨床検査技師が革新的なAI技術にどのように対応し、積極的に取り込んでいくかは、今後の医療の質と効率に直結する重要な課題と言えるでしょう。


◆機械学習と深層学習

 医療技術の進歩により、臨床検査技師の役割も急速に変化していること、またAIは臨床検査領域において新たな可能性を切り開く最有力候補であることをご説明してきましたが、なぜ今、AIなのでしょうか。AI技術の研究自体は約70年前から行われています。


臨床検査技師が知っておきたい医療AI
図2:AI技術開発の推移(筆者作成)

 図2は、AI技術開発の推移を示したものです。


 第1次AIブーム(1950年代~1970年代)には、AIに対する理論的な基盤が築かれ、初めてコンピューターによる学習や問題解決の試みが始まりました。その後、第2次AIブーム(1980年代~1990年代)には、機械学習やエキスパートシステムなどの新たな技術の開発へ取り組みが始まりました。初期の自動血液像分類装置が開発されたのは、この頃です。そして、第3次AIブーム(2010年代以降)が到来し、インターネットを通じて収集された大量のデータ(ビッグデータ)が利用可能になり、深層学習やニューラルネットワークなどの技術が進化したことで画期的なAI技術の進展が起こりました。この深層学習こそが、劇的な社会変革を起こす基盤となったAI技術です。


 機械学習と深層学習はともにAIの一手法であり、データからパターンを学習し、予測や判断を行うことに変わりはありません。両者の大きな違いは、機械学習は予測・判断に必要な基準を人間からの提示することが必要であるのに対し、深層学習は大量のデータをAI自ら学習し、複雑な特徴やパターンを自動的に抽出する点です。深層学習は、ヒトの神経回路を模倣した多層のニューラルネットワークを使用することで、画像認識や自然言語処理などで、驚異的な精度を実現しており、この手法を用いた医用画像診断の自動化に期待が集まっています。


 AIの進歩はすでに医療の世界に大きな変革をもたらし、それを活用することで臨床検査の未来が変貌していくことは明らかです。臨床検査技師はこれらの革新技術を、効果的かつ倫理的に活用することが求められており、それに伴い臨床検査技師の役割も大きく変わってくる可能性が高いと言えます。


 

※次回(2月22日木曜日配信予定)のAIリテラシー編(2)では、「第4次産業革命、データ駆動型社会、スマートホスピタル」などを解説する予定です。

 

野坂 大喜

PROFILE 大学病院勤務を経て現職。医用工学・情報科学を専門とし、病理画像診断システムの開発に携わる。大学発ベンチャー取締役の企業経験も有し、現在は医療AI技術や医療VRの研究を進めると共に、AI社会における言語技術教育に取り組んでいる。




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